「まさかこんなアホな事をホンマにやりよるとは」
ゆんべの韓国の戒厳令のニュースを聞いた際、筆者が真っ先に思った感想がこれである。どう見ても駄目だろこれ。根回しとか下準備がなさ過ぎて、成功する確率限りなくゼロやんけ。そして結果はその通りになった。
いや、でもその一方でこの戒厳がうまく行ったら面白いなと思ったのも事実だよ。朝鮮共和国を支持する立場としては、「第一の敵国」がこうした事で混乱したり衰退するのは望ましい。尹錫悦の戒厳令が通って、それで4.19や光州のように市民と軍警が衝突して死者の一人も出てくれりゃ、韓国は世界中から批難の的だ。当然朝鮮半島の北南対立状況は北側に圧倒的に有利になる。そこまで行ってくれりゃ良かったが、今回のようなまるで準備のない、大統領とわずかな側近衆の突発的な感情だけで起こされた非常戒厳宣言がうまく行くはずもなく、高望みをしても仕方がない。
軍を掌握してる訳でもなく、肝心のアメリカ様にも了解がない今回のアホみたいな戒厳令、まさにコップの中の嵐であり、大山鳴動してなんとやら。世界中に恥だけをさらした世紀のお笑いネタとして幕を引いた。
問題は今後であろう。今回の件によって尹錫悦の政治生命と言うか、大統領でいられるのもそう長くはあるまい。辞任か弾劾かという事になるが、朴槿恵の時と同じでたぶん死んでも辞任はないであろうから、国会で弾劾の可能性が高いのではないかと筆者は見ている。弾劾には議席の3分の2(200)の賛成が必要で、少数与党・国民の力が3分の1より少し多い108であり、そこからどれだけの弾劾賛成が出るかに掛かっていよう。朴槿恵の時も与党から賛成票が出た事を考えれば、弾劾が通る可能性は低くない。その後は憲法裁判所が弾劾するかどうかを判定するが、言うまでもなく韓国の憲法裁判所というのは日本の最高裁よりもサイテーな裁判所で、判断基準は「憲法ではなく権力者の顔色と世論」が全てである。朴槿恵の時はその支持率がほぼゼロに近い状態だったのであっさりと弾劾が決まった。尹錫悦の場合はどうか。最近の尹の支持率は10パー台後半と20パー台前半を行ったり来たりだったのが、今回の件でそれがさらに下がるのは自明であろう。これが一桁になれば憲法裁でもほぼ弾劾確定であろうが、二桁あるとちょっと微妙ではないかと思う。それほどまでに韓国の憲法裁というのは「人治主義」である。
で、仮に尹錫悦の弾劾が国会と憲法裁判所の二つの関門を通り抜けて確定したとしても、本当の問題はさらにその後に待ち構えている。当然選挙するわな。次の大統領は誰よ? 順当に考えれば多数野党民主党の代表である李在明を思い浮かべるかもしれない。朴槿恵失脚後に第一野党の候補である文在寅が大統領に当選した、あの頃のように。しかしながらあの時とは情勢がまるで違う。まず今の李在明はあの時の文在寅(この男が韓国の人民大衆にとって好ましい人材であったかどうかはこの際別にして)のように一人勝ち出来るような強力な候補ではない。先の選挙で尹錫悦にすら勝てなかったのを見ても分かるであろうし、「疑惑のデパート」状態という点では尹錫悦にも決して負けていないのだから。一方で国民の力の代表である韓東勲も今回の戒厳反対表決で支持を上げた。次に大統領選挙となれば李と韓の一騎打ち構図になる可能性が高く、ほぼ伯仲であろう。大分格の落ちる第三候補としてタレント教授上がりである祖国革新党の曺国なんてのもいるが、こいつもまた尹錫悦や李在明に負けない疑惑まみれの人物である。ロクな候補がいねェ! 何より忘れてはならないのは、尹は言うまでもなく、李・韓・曺の全員もどれだけ極度のアメポチで、「北傀」や「アカ」や「労働者」が大嫌いである事かという事だ! 特に李在明の親米反共反北は尹錫悦と同等かそれ以上である。
要するに李・韓・曺の三者いずれが次に天下を取ろうとも韓国の対米日従属、対北敵視、新自由主義、財閥優先、労働者・農民虐待、国家保安法、徴兵制、ウクライナ支援といった政策は何一つ変わらず「今まで通りの韓国」が今後とも続くに過ぎないという事だ。今回の戒厳阻止で「韓国民主主義素晴らしい!」みたいな事を言ってる連中がSNS上に多く見られたが、こういう連中は朝鮮半島の歴史や情勢を何も知らない。極端な話、別に尹錫悦の非常戒厳が成功しようとしまいと韓国の人民達の生活には何の関係もなかった。同じ政策を「独裁的」にやるか「民主的」にやるかの違いだけだから。
要するに日本と何も違わないという事に気付くであろう。自民党はもちろん、「最大野党」立憲民主党もまたとんでもないアメポチで、例え死んでも消費税を廃止したり下げたりしないし、ガソリン価格がどれだけ上がってもトリガー条項は絶対発動しないというのを、先の選挙で日本の有権者は目撃したはずである。「韓国民主主義素晴らしい!」などというのは単に隣の芝生が青く見えているに過ぎない。日本も韓国も超絶腐った資本主義国家で、甲乙付けがたい。まさに日韓仲良くしようぜ!
最後に今回の韓国戒厳騒動で「勝者」と「敗者」というのを判定しておきたいと思う。戒厳に失敗して与党からも後ろ指を指され、今や失脚カウントダウン状態の尹錫悦が「敗者」であるのは自明として、では誰が「勝者」か?
「そんなん決まっとるわ。戒厳令を阻止した韓国の市民こそが最大の勝者なんやあああああッ!」
なんちゅう事を頭の足りない親韓派どもは言うかもしれない。…全然違うな。
最大の「勝者」は李在明ではないかと思う。先述のように李在明は過去に他所の市長や知事をしていた時の様々な疑惑で係争中であり、民主党もまた李在明個人を守る為の私党のような状態で国政ほったらかしであった。その李在明のさまざまな疑惑が今回の件できれいに吹っ飛んでしまった。少なくとも今の所は! これは曺国についても同じ事が言えよう。結局尹錫悦はアホみたいな戒厳令で自滅し、政敵を助ける形で敗れた事になる。韓東勲(尹錫悦とはかつて検察で同じ釜の飯を食った盟友だったが)もまたその「戒厳阻止」のおこぼれに与って、あたかも「救国の英雄」みてェな振る舞いだよ。韓も「勝者」の範疇に入るであろう。
では「韓国の市民」は? 率直に言って堂々たる「敗者」だ。戒厳が成功しようとしまいと結局同じ。尹錫悦の後釜が誰になろうとも、厳しい生活が改善される可能性など1ミリもありはしないのだから。もちろんそれで韓国の人民を責める事は出来ない。どうしようもなかったのだから。戒厳はもちろん拒否、だが尹錫悦と同じ穴のムジナでしかない民主党や国民の力にもノー、などという都合のいい事が韓国のような国で許される訳ないであろう。そういう政治的・社会的要件が何も揃っていないのだから。結局国会の周辺に行ってビジョンのない烏合の衆デモする以外に道はなかったのだ。その光景を「韓国民主主義素晴らしい!」などと感動するのは勝手だが、あまりにものを知らなさ過ぎる。戒厳令などと言うと旧軍事独裁時代を思い出しておどろどろしいイメージだが、あの時と今では時代も社会も違い過ぎる。今回韓国で起こった戒厳はしょせん「コップの中の嵐」以上のものではなかった。その程度のアホなお笑いネタでしかない。同時に韓国の人民が置かれている状況は「退くも地獄進むも地獄」そのものである。戒厳が通ろうと通るまいと、誰が天下を取ろうとも、悲惨で過酷な韓国資本主義は何も変わらない。次の執権者が誰であろうと、間違いなく尹錫悦と同じかもっと酷い事をする。朴槿恵から文在寅に変わった時のように。
人民の窮状が改善される事はないのだ。
戒厳令が阻止されたからといって、これは決して「韓国市民の勝利」などでは決してないという事。この事を今回の件が我々に与えてくれる最大の教訓として肝に銘じておかねばならない。