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白玉老虎 백옥로호 はくぎょくろうこ

切り貼り劇場2023.12.11

今回は切り貼り漫画を御覧いただきます。特に深い意味はございません。
※取り急ぎ完成したネタから。後日さらに追加します。

エピソード1
かつて西アフリカのブルキナファソを独立に導きながら悲運に斃れたトマス・サンカラという大英雄がいました。2020年代になって、その衣鉢を受け継ぐ若き獅子が現れたようです。



エピソード2
ウクライナ事態以降、欧米帝国主義に立ち向かうロシアの姿に勇気付けられ、そしてアメリカの世界覇権崩壊を契機にアフリカで民族自決の波が新たに沸き起こりました。フランスに長らく収奪されてきたここニジェールにおいても。
   

エピソード3
こんなボケ老人くらいしか大統領になる者がいない? 一国の指導者に相応しい人間が現れないというのは、その国の衰亡ぶりを最も象徴する出来事です。

※後日ネタを追加します。

拍手[5回]

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【翻訳記事】李海栄教授寄稿文 「多極化」と朝鮮半島の「地政学的」危機

・訳者より

今回は韓国の韓神大学国際関係学部教授である李海栄(李海榮 이해영 イ・へヨン)教授が今年11月8日に行った緊急討論会「イスラエル・パレスチナ戦争の現況と展望」で行った講演文を翻訳して御紹介したいと思う。
李海栄教授については以前別の機会にウクライナ戦争についての講演内容を翻訳して御紹介した事があるが、今回は今現在進行形で起こっているパレスチナ戦争及び先日の衝撃的だった朝露首脳会談の持つ意味と今後の展開、さらに対する韓国の置かれている状況と直面している経済的危機について述べた内容となっている。いずれもウクライナ事態以降アメリカの世界一極覇権が崩壊して激変する国際情勢の中、日本や韓国含む西側マスコミでは報道される事のない重要な情報と分析内容と言って良い。なかでも朝露首脳会談が真に持つ意味は日本でも多くの方が気がかりであろう。あれを西側マスコミは卑下して貶める事に必死であったが、あれはそのような単純なものではない。ウクライナ事態以降起こってきた世界史的重大事件(人民元による石油取引とオイルダラーの崩壊、中国の仲介によるサウジとイランの和解、ブリックスの拡大、西アフリカサヘル地域の民族自決などなど)の一つとして注視しなければならない大きな出来事である。今回李海栄教授が述べている事柄は、先日のシカゴ大教授ミアシャイマーの予見と併せて考えると興味深く、また重要な示唆となるであろう。

李海栄教授は日本では依然としてほとんど知られていない人物だが、この間韓国でウクライナ事態について最も鋭く的確な発言をしてきた3人の論客の一人であると筆者は評価している。その3人とは李教授の他にハン・ソル(한설 元韓国軍首都防衛司令部参謀長、元陸軍軍事研究所所長)氏と姜来煕(姜來熙 강내희 元中央大学英語英文学科教授、文化連帯共同代表)教授だ。この人達のこの間の発言はいずれも鋭く、筆者も大いに学ばせていただいた。ハン・ソル氏の記事についてもやはり以前別の機会に御紹介した事があるが、姜来煕教授についてはまだ翻訳していない。いずれ近いうちにお届けしたいと思う。この人達の発言はほとんどが自身のSNSか学習会などで発表されてきたもので、まさに孤独な戦いであった言って良い。そしてウクライナ事態勃発から1年以上過ぎた辺りから、結局この人達の言っている事が正しかった事が証明されたのである。

これによってアメリカの世界覇権が崩壊すると。
ウクライナはロシア攻撃・不安定化の為に米NATOに育てられたネオナチの天下であり、ロシア系住民に対する虐殺とアパルトヘイト(今イスラエルがパレスチナに対してしているのと同じ!)が横行していたと。
どう見てもウクライナに勝ち目などないと。
今やロシアとアメリカの兵器の性能差は天と地ほども開きがあるのだと。
ヨーロッパはロシアを制裁する事で自ら自滅すると。
ウクライナ事態の本質とはロシア対欧米帝国主義の構図であり、これによって長年欧米帝国主義に苦しめられてきた旧植民地第三世界グローバルサウスはロシアに味方すると。
G7はすでにブリックスに経済的にも追い抜かれそう(抜かれた)であり、ブリックスを軸とした多極化が次にやって来ると。
今後の世界は「技術」ではなく「資源」を持った国が強いと。
覇権を失ったアメリカはヨーロッパや韓国や日本といった属国達のオイシイ産業を奪って(同盟窮乏化政策)自分だけ生き残ろうとすると。
ウクライナ事態とそれによる国際情勢の大激変は、朝鮮半島の北側には順風で南側には逆風であると。

この間の経過を見れば歴然としていよう。全てそうなった。
そして御多分に漏れず、この3人はこの間韓国の大手マスコミ(は保守派も進歩派も全てウクライナ応援団だった)から徹底的にパージされてきたのである。それどころかハンギョレに至っては李海栄教授とハン・ソル氏に対して酷い攻撃すら仕掛けていた。同紙国際部長(元日本特派員でレイシストしばき隊とズブズブの関係だった)である吉倫亨(길윤형 キル・ユンヒョン)という記者がその急先鋒で、この男は紙面はもちろん自身のSNS上でも李教授とハン氏を誹謗中傷し、挙げ句の果てには「韓国はG7について行くしかない」みたいな事まで発言していたのだから呆れ果てる。韓国の「民主勢力」だの「進歩派」だのがどれほど欧米帝国主義のイヌな「想像白人」であり、尹錫悦政権&与党国民の力といった「旧独裁勢力」と本質的に違わないかがよく分かるであろう。

同様に酷かったのが日本の「市民社会」である。韓国でもそうだったが、日本の「市民社会」はこの間こぞって「ウクライナ加油・暴露膺懲」で大政翼賛状態であった。1990年代に自衛隊PKOに反対し、2000年代初期にアメリカのイラク侵略戦争に反対していたような人々(中でも日本消費者連盟の醜態は悲惨過ぎた。あの日消連がこんな事になっちまうなんて…)もことごとく反ロシア・反中国に走り、アメリカ帝国主義の手先に変わり果てたのは地獄絵図そのものとしか言いようがない。誰も彼もが戦争協力した「あの時代」が再び! 日韓市民社会壊滅! まさに日韓仲良くしようぜ! そうした中にはいわゆる「日韓連帯」を標榜する「親韓派」という無知なエセ左翼達が多いが、そういう妄想家連中には上記の李海栄、ハン・ソル、姜来煕といった人達は一生涯縁のない論客達であろう。あの手の連中はこの3氏の名すら知らないであろうし、仮にこの人達の発言内容や記事を読んでも理解出来ないであろうから。アナクロ右翼の嫌韓派に至ってはなおさらだ。親韓にも嫌韓にも知られていない・気付かれていない、そんな人達の中にこそ韓国の真に優れた知識人や論客はいる。親韓・嫌韓・左翼・右翼問わず日本人が韓国から呼び寄せて仰々しく講演させる「学者」や「市民運動家」連中というのは、ほとんどが馬鹿かペテン師の類であろう。

こうしたまっとうな知識人・論客がパージされてきた事は実に致命的であったろう。

今回の記事は韓国のウェブニュースサイトである「統一タイムス」に掲載された。
翻訳は筆者・李玉堂が行った。原文記事URLはこちらになる。
http://www.tongiltimes.com/news/articleView.html?idxno=1854


【寄稿】「多極化」と朝鮮半島の「地政学的」危機
去る11月8日に開催された緊急討論会「イスラエル・パレスチナ戦争の現況と展望」において発表された李海栄教授の論題を文章に整理し、著者の許諾を得て掲載します。
統一タイムス読者のみなさんが中東事態の持つ世界史的含意を理解するのに助けとなる事を願います。
著者:李海栄 韓神大学教授 社団法人韓国安保通商学会会長

記者名 李海栄教授
入力 2023.11.14 09:01 修正 2023.11.14 10:17

「多極化」と朝鮮半島の「地政学的」危機

1.バイデンの「二つの戦争」

米一極Unipolar時代を象徴した「二つの戦争」戦略が破棄されたのは2012年オバマ大統領の時だった。二つの地上戦、主に朝鮮半島と西アジアにおける予想戦場全てで勝利するというアメリカの戦争ドクトリンの代わりに、「ワンプラス」戦略が提案された。当時米国防戦略変更の主な根拠として提示されたのは国防予算、すなわち経済的な問題だった。

2021年のアフガン米軍撤収とまたイラク駐屯米軍が戦闘任務中断を通して、バイデンは西アジアにおける「二つの戦争」を終結させようとしていた。2001年テロとの戦い以後、アメリカの20年戦争がこのように終結する予定だった。だがアメリカは「戦争なしには生きていけない国」である。今や2023年、パレスチナガザ地区の「準政府」ハマスイスラム抵抗運動側による10月7日対イスラエルロケット攻撃にかこつけて、バイデンは瞬く間に「二つの戦争」をまた召還した。オバマの破棄以降おおよそ10年ぶりだ。

アメリカ一極体制の戦争ドクトリンが復活したという事だ。まさに「多極化時代」に、である。ここで二つの戦争とはあまねく知られているように、ウクライナ戦争とイスラエルの対ハマス戦争を言う。だが1991年アメリカの冷戦勝利以降、米一極体制における二つの戦争とバイデンのそれは、ちらりと見ても何かずいぶんと違うという事が分かる。1991年の二つの戦争ではその形態がどうであれ米軍の直間接的な参戦と分離されないものだった。だがバイデンのそれはかつてと大きく違う。ウクライナ戦争だけ見ても米軍は域外参戦国だった。すなわち武器と資金を支援して、ウクライナ軍に代理で戦わせる代理戦争だった。そこでこれを「ネオコン代理戦争」と呼ぶ理由もここにある。米軍の直接参戦を除くほぼ全てのものはアメリカから出て来た。またプロパガンダ戦争はもちろんの事、外交戦争・経済戦争も全てアメリカが遂行する戦争であった。ただ一つ、一部軍事顧問団や傭兵を除く米国籍の正規軍はいずれにせよ参戦しなかった。

それならばイスラエル・ハマス戦争、いやパレスチナ戦争はなぜ二つの戦争中の一つという話なのか。実際に戦争はイスラエル占領軍がしているというのにだ。もちろんアメリカの黙認・幇助がない限りあのような方式の民間人に対する無差別絨毯爆撃は可能でなかったろう。現在アメリカは東地中海をはじめ近隣水域に約73隻の選管を派遣した。ここに30隻以上のNATO所属戦艦を合わせれば、100隻をはるかに超える戦艦が配置されている。その内容を見ても2隻の大型空母(フォード、アイゼンハワー艦)、2隻の垂直離着陸機VTOL搭載空母(USSバターン、ITSカヴール)、2隻の誘導ミサイル巡洋艦、11隻の誘導ミサイル駆逐艦、そして多数のフリーゲート艦など。もちろんここには数字未詳の各種級の潜水艦は含まれていない。これ程の規模はこの半世紀にわたって始めての規模である。潜水艦を除いて空母4隻が含まれる総100隻を超える艦艇が、いかに多くても約4万のハマス戦闘兵力を討伐しに集結したと言うならば、これは少し精神鑑定が必要な人間だ。

ウクライナ戦争はプーチンの戦争から始まって、バイデンの戦争として終結するだろう。現在他の条件がいかに可変であったとしても、戦況を覆すのはほぼ不可能に見える。そこでバイデンが言う二つの戦争のうちの一つはアメリカが敗北した戦争だ。そして残り一つはアメリカが勝利しなければならない戦争だ。ましてや来年の大統領選挙で、それでも政権維持の希望だけでも握ろうとするならばだ。

カーター政権の安保補佐官だったブレジンスキーは「巨大なチェス盤」で中国・ロシア・そしてイラン三者の「不満の同盟」をアメリカ外交の悪夢であると呼んだ。もちろんブレジンスキーがこの本を出した1990年代には中・露・イラン三国の「同盟」というのは、ただ戦略家達の想像の産物とさして違わないものだった。だが今は違う。中・露・イラン三国の(軍事的意味の「同盟」というよりは)「戦略的協力」関係は今や厳然たる現実となった。


【図1】ハマスの反撃(10.7)【写真出処:アルジャジーラ放送キャプチャー写真】


【図2】2007年以降ガザの封鎖【写真出処:アルジャジーラ放送キャプチャー写真】

米覇権の恒久化の為には中・露・イラン三国それぞれ、またはこの三国の協力体からの挑戦を同様に各個撃破、または一度に対応しようともアメリカとしては何としても克服しなければならない。そうでなければグローバル米覇権の未来は確信出来ない。

第一に、この為にバイデン政権はウクライナを代理に押し立てた戦争を今も遂行中である。だがすでに言及したように、その勝利展望は現在非常に暗い。そしてヨーロッパのNATO会員国も露骨的な疲労感を表しており、NATO内部においてもハンガリー・スロバキア・セルビアの反ウクライナ支援連帯網が構成された。

第二に、やはり最も大きな問題は中国である。そこで台湾を第2のウクライナにして武器と資金を支援しながら代理戦を展開する方法だ。実際ウクライナ戦争だけについて見るならば、米国務省ブリンケン長官やヌーランド次官などユダヤ系ネオコンに対し、国防省の反中リアリストの意見が手強かった。だが国防省側だけがこの第2のシナリオに対して反対しているのではない。またこの為に米・日・韓三角同盟をアジア版NATOと類似したものに構築して、東アジア代理戦争に動員する構想も順調に進行して来た。しかしここにはウクライナ戦争とは違ってNATO会員国を引き入れるのには明らかに限界がある。そこで米・日・韓軍事同盟がこの役割の為に何よりも必要なのだった。

そこで第三に、今やイランだ。産油国イランの技術水準が核兵器獲得直前に来ているという点も非常に重要である。そしていわゆるレバノンのヒズボラ、シリアへと続くいわゆる「シーア派ベルト」あるいはさらにいわゆる「抗争の軸 Axis of resistance」は、今後イランの域内の力がアメリカが決して無視出来ない水準になるであろう事を示唆する。


アメリカ覇権の維持という観点で見るならば、イランとさらにはハマス、ヒズボラをはじめとした域内親イラン勢力を弱体化させるのは、それ自体が有意味な軍事戦略的目標になり得る。イスラエルがイランの設定した「レッドライン」をすでに軽く飛び越えたとした場合、イランの直接的な対イスラエル軍事的介入は今となってはさほど現実的なシナリオではない。しかしながら現在、今世紀最大規模で集結した米軍事力の投射目標が何なのかは依然として明確でない。すでに中国がイランとの防衛協調をはっきりと明言し、ロシアはシリア内ロシア軍基地はもちろん黒海で極超音速ミサイルキンザールを装着したミグ31の24時間哨戒飛行に入った状態だ。ある者はシリア北部油田地帯の「不法的」米軍基地に対する親イラン武装民兵隊のミサイル攻撃に対する米国防省反応をめぐって、1960年代にアメリカが創作したトンキン湾事件の再来を憂慮したりもした。第2のトンキン湾事件を創作してイランとの本格戦争に突入する憂慮という事だ。


【図4】西アジア米軍重要基地 【写真出処:アルジャジーラ放送キャプチャー写真】


【図5】パレスチナ戦争以後のアメリカの戦力投射 【写真出処:アルジャジーラ放送キャプチャー写真】

先月プーチン大統領は年例バルダイクラブ国際討論会で非常に興味深い発言をした。今ウクライナ戦争は領土を占める為の戦争ではないという事だ。そしてこの戦争は新世界秩序の原則に関連した戦争であると語った。「ウクライナ戦争は領土紛争ではない。私はこの点を強調したい。ロシアは世界で最も大きな領土を持つ国である。我々はそのいかなる追加的な領土の征服には何の関心もない。我々は依然としてシベリア東部と極東地域を探査・開発しなければならない。ウクライナ戦争は領土戦争ではない。そして地域の地政学的均衡を作る為のものでもない。問題ははるかに広範囲で根本的なものだ。それはすなわち新世界秩序が基盤とすべき諸原則に関するものだ」プーチンのこの言葉はかなり重層的な意味を持つと見なければならない。

第一にウクライナ戦争の目標はウクラ全領土の占領ではない。だがこの話が歴史的に「ノボロシア」と表現される東南6州(現在は4州のみ占領・統合)に対するロシアの要求を放棄するという話ではない。ノボロシアの確保が完了すれば、残りの領土はすでに知られているように非武装中立を要求する可能性が高い。だが「NATO加入」をネタにしてアメリカなどNATOが西ウクライナに対する権利を要求した場合、戦争は続く可能性が高い。

第二に、ウクライナ戦争と新世界秩序、多極秩序との関連だ。ロシアはすでに戦争目標のうち一つとして「1997年境界」へNATO軍と兵器の退却を要求する。この目標はNATOの戦略的弱体化や消耗なしには不可能だ。現戦争の政治的目標にはまさにこれも含まれる。アメリカ中心の一極体制と、プーチンの語る新世界秩序または「民主的」国際関係は両立可能でないからだ。

第三にか触れるように言及されたシベリア東部と極東開発である。朝露首脳会談と両国の新しい戦略的協力関係の地政治経済的意味がここにあると見なければならない。ウクライナ戦争の行方とロシアの新しい国家戦略として「アジア回帰 pivot to Asia」は韓米日軍事同盟また「アジアNATO」の出現によってむしろ新しい弾力を確保した。朝露首脳会談以降、ロシアのラブロフ外務長官の話のように完全に新たな地政学的条件が作られたのだ。

ウクライナ戦争と現在進行中であるパレスチナ戦争は「多極化」をネタに連結している。すなわち一つの過程が互いに違う条件で、互いに違う形態で表出しているという話だ。現在東ヨーロッパでウクライナを代理に押し立ててロシアの戦略的弱体化を導いた後、第二第三戦線を開いてロシアを破裂させ、さらには政権交代を導くというアメリカのシナリオは事実上失敗した。現在グローバル次元で多極化陣営は中国の上海協力機構SCO、ロシアのユーラシア経済連合EAEU、そしてさらにはブリックスという三大軸を中心に動いている。ここで核心はこの三大中心が今や統合傾向を見せているという点だ。すでにブリックス5(中国・ロシア・インド・南アフリカ・ブラジル)だけでもGDP(PPP基準)規模でG7を追い越し始めた。2023年今年がまさにそのゴールデンクロスの年であるだろう。そしてそのブリックス5が来年からサウジ・イラン・エジプトを含むブリックス11へと、そしてブリックス30・40へと素早く拡張される計画である。中国が仲裁したイラン・サウジデタント、そしてロシアが仲裁したシリアとトルコ、そしてイランの協力関係復元などは基本的にはまさにこの「多極化」の効果にして、それ自体で西アジア平和プロセスだ。しかしこれはイスラエルを軸とした西アジア内米国覇権の弱体化あるいは亀裂を意味するものだ。この新たに造成された情勢の隙を狙って、イスラエルの56年軍事的強制占領体制と17年ガザ軍事封鎖の突破を試みたのがハマスの攻勢であったと見る事が出来る。そうだとした場合、現在投射された今世紀最大規模の米軍事力は、この新しい西アジア平和プロセスを可能にさせる力の関係を原理通りに、すなわち米覇権のあった場所に戻すという転覆の試みだ。極度に危険な、そしてひょっとしたら第3次世界大戦の街角に人類は立っているのかもしれない。

そうした点で11月3日午後3時(現地時間)ヒズボラのナスララ指導者の演説はパレスチナ戦争の行方を決定付ける決定的な変曲点として世界の人々の耳目を集中させたものであった。ナスララの演説を前にして、米ホワイトハウスはブリンケン国務長官を大急ぎで派遣した。そうした後に外国人人質釈放条件付12時間停戦、ガザに5万リットルの燃料供給、国連と赤十字の車両移動保障、一日トラック200台分量の人道的支援などをイスラエルに「要求」した。ここに政治生命がいくらも残ってないものと見られるネタニヤフは、人質釈放なしに休戦はないと言ったと報道された。すなわちブリンケンの要求を事実上拒否したものである。その直後のサウジ・エジプト・ヨルダンなどの会談もまた、即休戦を要求する域内関係国に対してアメリカのさしたる解法を提示出来ず、これもまた何の成果もなかった。

彼の演説前に視線はヒズボラの「全面戦 full war」譫言如何に集中された。全世界、特にアラブ圏全体もこの単語が登場するかに全視線が集中していた。万一ヒズボラがイスラエルを攻撃すなわち全面戦を宣言したなら、ナスララも演説で言ったように、アメリカはイランを攻撃したという。すなわち米・イラン戦争が勃発するという事だ。米・イラン戦争が勃発すればロシアも、中国も、いかなる形態であれ介入する以外にない。すなわち第3次世界大戦が勃発するという事だ。今東地中海に投射された2次大戦以来最大規模の米軍事力は、この目的で来ているのだ。ナスララの演説も意図的にイランに対してはほぼ言及しなかった。言及された戦争の目的はガザ戦争を勝利で終結させる事であり、ヒズボラの今の「実戦 real war」は「制限戦 limited war」であるが、今後これが全面戦に拡張されるかどうかはガザ戦争の状況にかかっているという事である。(そして実際に資料を見ると、ガザ地上戦においてよりも北部戦線でのイスラエル軍戦死者(ヒズボラによれば120人ほど)がより多く装備損失もより多い)

ナスララの話によると今繰り広げられている10月7日以降のガザ戦争は、この地域全部を合わせて完全に新しい歴史的局面にして「決戦」である事を意味する。そしてイスラエルは史上最大に弱体化した「破れた蜘蛛の巣」のようなもので、アメリカの支援なしに状況を主導する事が出来ない状態だ。要するに「全てのオプションがテーブルの上にある」。だがこの全ての事を総括して見た時、ヒズボラの現段階選択は一旦全面戦自制de-esacalationであると同時にイスラエル北部戦線における低中強度の制限戦は継続するというメッセージに読める。これはまた米・イラン戦争、すなわち第3次世界大戦へとエスカレーションされるのはアメリカはもちろん中露も望まないであろうし、それよりは低い規模の地域regional戦争の可能性は特にガザ戦争の行方に比例・連動していつでも開かれている事を意味するものだ。

現在米中露などグローバルプレイヤーは言うまでもなく、域内中堅国から中小規模準国家勢力にいたるまで、全てが互いに条件をかけあって状況を鋭意注視している形勢だと言う事が出来る。すなわち「もしおまえが何々すれば、我々も何々する」という風な条件方程式という事だ。ナスララの演説で新しい条件が作られたのはなかったが、未知数が消去されたものもない。そこで各勢力の非常に複雑な交差方程式において死んでいくのは、パレスチナ民衆達だけだ。軍事的観点ではハマスレジスタンス軍の戦争遂行がどのように展開するかが最優先の鍵だ。「戦争の霧」がもう少し晴れるまでは、イスラエル極右シオニスト達は引き続き民間人達を「ハンティング」するものと見られる。歯磨き粉を絞るように全て絞って、シナイ砂漠へ「放り捨てる」時まではだ。

しかしながら軍事的アプローチ外から作られる米英をはじめとした独仏伊などの内部で強力な平和運動が新しい条件を作っていくのはそれなりに希望がある。ましてやイスラエルとの断交と大使召還まで厭わないグローバルサウス国家達の声を育んでいく事も非常に励みになる。ここにドイツナチを軽く凌駕するシオニストナチ達の天人共怒する残虐劇に、そのいかなるアラブ指導者達も他に声を上げられない状況もアラブ圏の団結を推し動かす要因だ。

この過程で突出した変数として、イスラエル国家遺産省長官アミハイ・エリヤフAmichai Eliyahuが「ガザ地区に核爆弾を投下するのも選択可能なオプションの一つ」と発言した。続いてその直後にネタニヤフ総理はエリヤフ長官が閣僚会議に出席するのを永久停止させたという。現在、仔細な内幕や核爆弾投下準備の程度を知る事は出来ない。これに対してハマスが公式声明を発表した。「ガザに核爆弾を投下するというテロリスト長官アミハイ・エリヤフの宣言は、レジスタンス軍に遮られて軍事的失敗を経た占領軍のナチズムとジェノサイト慣行の表現である。いわゆる国家遺産省長官アミハイ・エリヤフの発言は無から出たものではない。それは殺人とジェノサイトに基づく占領軍当局の回廊と精神の中に広まる腐敗堕落、ナチズムそしてサディズムの水準を表現するものだ…

これらは占領軍戦争副長官ベニー・ガンツがガザ地区の我が民衆に対する野獣的侵略初日に発言したように、人間の顔をしたケダモノというだけだ。我々は国際社会・国連それに関連国際法廷がナチテロリストの犯罪的発言と占領軍指導部の発言を真摯に看做す事と、この者達がガザ地区でほしいままにしているジェノサイト戦争を中断する為の緊急な必要措置を執る事を訴える」

イスラエルは核保有国である。そしてアメリカは言うまでもなく、いわゆる国際社会がこれに対してただの一度も論争らしい論争をしたためしがない。それなのにイランが核武装を前にするや、アメリカは戦争を厭わないと宣言した。だが現在西アジアに造成された力関係は、特に来年の米大統領選挙を前にして双方が一旦止まるモードにあるだけだ。ヒズボラのナスララ事務総長が語ったように、イスラエル北部戦線の交戦はとりあえず低強度モードにおいて継続されるだろう。万一ここで全面戦に広がったら、もはや戦争は地域戦を経て世界大戦へ進む。したがって現局面は双方がディエスカレーションモードを選択する中、ガザ地区交戦が本格化するその時点である。現戦争の展望と関連して要するに
1)イスラエルは実存的危機に陥った時、核使用を躊躇しないだろう。
2)ガザ地区核爆撃は現ネタニヤフ政権内ですでに選択可能なオプションとして論議された事案である。
3)アメリカはまだ拡戦よりは状況管理の中でハマスだけ間引く案を選り好んでいるものと見られる。
4)いわゆる「抗争の軸 Axis of resistance」(イラン政府が主導する非公式な反西欧・反イスラエルの政治・軍事連合を指す呼称。シリア政府やヒズボラから、各群小民兵組織まで包括して言う:訳注)やはり側面支援を通じてガザ戦争の行方を注視している。
5)双方の力の大きさは「相互確証破壊 MAD」水準に来ているという意見もある。
6)過去1970年代1990年代と比較して、西アジアにおけるアメリカの力は「当事者一方」へと萎縮しているものと判断される。
7)ガザ戦争はこれから本格化するだろう。少なくともハマス側によれば、イスラエル占領軍の被害もまた馬鹿に出来ないように見える。


【図6】西アジア「抗争の軸」 【写真出処:アルジャジーラ放送キャプチャー写真】


2.朝露首脳会談と朝鮮共和国の「地政治経済的ジャンプ」

実際アメリカの本来の構図は、台湾を代理に立てて中国の攻撃を挑発する事であるかも知れない。そのようにロシア・中国・イランの覇権挑戦意思を挫折させる事がその政治的目的である。だが現在展開している状況は(特にパレスチナ戦争勃発以後には)果たしてバイデンが一極体制時代の「二つの戦争」論を再召喚したにも関わらず、アメリカの戦略的意図が何なのかを見計らうのが決して容易くない。そしてもしかすると、そのような意図というのが一体全体存在するのかも同様だ。

現在朝鮮半島を取り巻く地政学的そして地経学的関係は基本的にアメリカの「作用」で始まるものだ。去る4月の韓米首脳会談で出発し、韓米日首脳会談で頂点を記した。核心は韓米日三角軍事同盟である。源流であるNATOの対中国用枝分かれタイプだ。韓米日同盟の結果、アメリカは1981年以後初めて、核弾頭を装着したオハイオ級原潜ケンタッキーを2023年7月に釜山港へ、そしてその直後にロサンゼルス級原潜アナポリスを済州島に寄港させた。済州島とは済州江汀(강정 カンジョン)港を指す。済州江汀は誰もが知るように、一時激烈な反発を呼び起こしたまさにあの場所だ。当時政府はこの港をクルーズなどの為の旅客港だと言っていたが、結局はアメリカ原潜基地として使用されるだろう。すなわち平沢(평택 ピョンテッ)、群山(군산 クンサン)の米空軍基地と共に、江汀は米海軍基地として東中国海を経て上海に入る中国船舶の要所道を遮断する役割をするものと見られる。結局済州江汀が平和の島であるという話は、これによって完全に嘘となった訳だ。そしてアメリカの原潜は済州沖合いのみならず、東海(동해 トンへ)までカバーする事で名実共に韓国の海三面全てが戦場であるという事を語ってくれる。

光州虐殺の米政府公式文書を初めて公開したティム・シャーロックTim Shorrock記者は米文書保管所から見つけ出した記録物を通じて、アメリカは南朝鮮を占領した最初の年から日本再武装と「日本とアメリカの戦略的理解の統合」を推進したという。そして朴正煕を圧迫して日韓協定を締結させ、以後ベトナム戦争期間に日本の朝鮮半島介入を強力に圧迫したという。

オバマ政権当時にも韓日間の慰安婦論争を終息させる為に、アメリカは両国を圧迫した事がある。文在寅政権当時韓日関係はより悪化した。そうした後にバイデンと尹錫悦の登場以降2022年10月には韓米日合同軍事訓練が行われ、三者安保協力が前例なく強化されながら、朝鮮半島の緊張は急速度に激化した。

バイデン政権はこの三角同盟を「名品外交 masterpiece of diplomacy」と自画自賛しつつ、その代価として尹錫悦を国賓招請してこれを「褒賞」して、また褒め称えた。この流れに合わせて日本は史上最大規模に国防予算を増額する。そして今後はNATO基準に合わせて予算をさらに増額し、究極的には米中に続いて世界三位規模に仕立て上げるという。シャーロック記者によれば、今までアメリカの韓米日三角同盟すなわち「アジアピボット Asia pivot」の設計者はバイデンの「アジアツァーリ」と呼ばれた、そして米国務省副長官として任命されたカート・キャンベルKurt Campbellである。韓国・日本をなだめすかす「ビッグダディ」がまさにキャンベルNSCインド太平洋調整官だ。キャンベルはバイデン政権内で最も親日的な人物として知られている。

韓米日三角軍事同盟は1945年の米軍政以来、ついに夢を実現させたアメリカ外交のアジア理想郷であった。そうした点で、尹錫悦大統領こそまさにアメリカのアジアンドリームを成就させた、待ちに待ったまさにその人物だ。李承晩も朴正煕も李明博も朴槿恵も敢えて夢にも見れなかった大業を、尹錫悦は成し遂げた。韓米日軍事同盟の将来は茨の道である。最も大きな難関はバイデンの老人ボケと政権再創出だ。アメリカ人の絶対多数もこれを心配する。今後アメリカ大権の行方次第で、韓米日同盟の未来も確言し難い。その他に各「些細な」難関が並び立つ。一番最初に、韓米日軍事同盟は許容されるのに、朝中露軍事同盟がいけない理由を説明せねばならない。韓米日は地上戦含むあらゆる軍事訓練をしても良いのに、朝中露が軍事演習をしてはならない理由も説明せねばならない。韓国はロシアの源泉技術で衛星発射しても良いのに、朝鮮はロシアの技術で月世界へ行ってはならない理由も同様だ。韓国はロシアの同意なくロシアの源泉技術が含まれるミサイルをチェコ経由でウクライナに「輸出」しても良いのに、朝鮮の砲弾はただの一発も送ってはならない理由もそうである。今年に限っても韓国は155ミリ砲弾33万発を船で飛行機でミスなくウクライナに積み送ったのに、朝鮮がしてはならない理由も同様に気がかりになる。韓国は自国戦車と自走砲をポーランド経由でウクライナに「輸出」しても良いのに、朝鮮はいけない理由も説明せねばならない。

韓米日三角同盟が先に語ったように「作用」ならば、朝露首脳会談は第1次「反作用」だ。朝露「ラプロシュメント rapprochement 親善」を中国と接合させるのは、おそらくすぐに行われるであろう韓中日首脳会談などの流れ以降に最終方向が決まるものと見られる。アメリカがドライブをかけた対中「デカップリング」がアメリカの多国籍資本と特にEU側の反発にぶつかって「ディリスキング」へと旋回した後、米中間には「味見」の高位級訪問が列をなした。だが「リスク管理」以上になるのは難しい。そこですぐに行われるAPECの期間に習近平訪米に先立ってサリバン安保補佐官の「第三時代」発言が注目を集める。一極体制に続いて「相互依存と超国家的挑戦の中、新しい競争の時代」に差し掛かったとした話の事だ。そこで特にトランプが掲げている対中「デカップリング」へ、差別化の為の米中関係「安定化」カードという解釈も出て来る。韓中日会談やはりこの脈絡で見れば良い。そうした後に第2次「反作用」がより姿を備えていくのではないかと予想される。

昨年のウクライナ戦争勃発とそれ以降の世界史的流れを見ながら、私はこれを「地政学的大転換」と指摘したことがある。朝露首脳会談はこの地政学的大転換が本格化するもう一つの変曲点だ。朝露会談について、会談が始まる前からアメリカや韓国のマスコミはこれを非難する為にあらゆる資源を動員したかのようであった。両国の観点はほぼ全て二つの仮説に基づく。第一に、ロシアが孤立した。第二に、ロシアが戦争で負けている。この仮説に基づき、「孤立したロシアが足りない砲弾などの武器を朝鮮共和国から買う為に首脳会談を開いたものだ」というのがその物語のおおよそだ。だがこの仮説は誤っている。私は「朝露武器取引」というのは韓国で「のみ」有り得るだろうと確信する。なくてもあるとするだろうから、永遠に韓国ではプーチンと金正恩が大砲の弾を取引しに会ったと言うだろう。そのように信じるだろうからさらに危険なのだ。「ニューヨークタイムズ」によればロシアの砲弾製造量は西側全部を合わせたのより7倍多いという。そして武器専門家の話を借りれば、朝露の主砲が共通的に152ミリだとしても砲弾の寿命が20年である事を考え合わせれば、すでに保存期限が過ぎた朝鮮の砲弾をやってもまともに飛ばせないという。国連安保理決議を口にしながら、朝鮮の衛星が制裁違反だと主張する。だがその決議を仔細に見れば、国連決議上禁止されたのは「弾道ミサイル技術」である。衛星技術ではないのだ。両者は「等しいが同じものではない」のだ。そうした点で「違う」。すなわち万一ロシアが韓国に対してやったように衛星技術を朝鮮に提供したとした時、これを以って無条件「不法」だと主張する事ばかりは出来ない国際法的「グレーゾーン」が存在するという事だ。そしてロシア大統領報道官の話のように、朝鮮の宇宙飛行士を月世界に送ってやったらこれは安保理決議違反なのかどうなのか。ロシア外務長官は過去の国連安保理決議の時と今は「地政学的に完全に違う条件」である事を宣言した。すなわち国連安保理決議は事実上有名無実である。

韓国では違うが、国政的特にグローバルサウス陣営では大変良く知られたペペ・エスコバルは現在のグローバル地政学的状況を19世紀英露間「グレートゲーム」になぞらえて「新グレートゲーム」だという。ロシアの南進を阻止する為のイギリスのこの1世紀に亘る死闘と比較してである。非常に興味深い解析だ。この「新グレートゲーム」の核心軸が中露「二重螺旋 Double Helix’」である。ここにインド・トルコ・イランなどの「多極multipolar」のみならず、「多重心polycentric」が存在する。そしてこのどこにもロシアの南進と東進を防ぐ防ぐ力の中心が見えない。エスコバルは朝露首脳会談を2014年以降から準備された西側覇権に対する「老練な戦略的一撃 masterful strategic coup」(クウcoupは一般的にクーデターと訳されるが、ここでは一撃・一打がより相応しいだろう)と呼ぶ。そしてそれは朝鮮が「ユーラシアビッグピクチャー Big Eurasia Picture」を見たという意味でもある。

「少数」に過ぎない西側を除き、巨大なグローバル地球の現時点で最も大きな流れはブリックスと、中国が主導してきた上海協力機構SCOと、そしてロシアが主導してきたユーラシア経済連合EAEUが統合傾向を見せるという事だ。ここにブリックスも同じ流れだ。朝露会談を弾力にして、朝鮮がまさにここへ「地経学的にも」接続し得るという話である。「朝鮮共和国のユーラシアへの地経学的統合」これが核心だ。これは過去の「通米封南」すなわち核と経済の直接取引ごときとは次元の違う問題である。ヨーロッパは本当に認めるのが嫌であろう。ロシアが自身を捨てたという事実をだ。ロシアが見るにヨーロッパは未来への展望がない。成長動力が枯渇した為である。ヨーロッパは自分達がロシアを封鎖したと見るだろうが、実際はロシアがヨーロッパを離れたのだ。そこで国家戦略の再構成の結果がロシア版「アジアへの回帰 pivot to Asia」戦略である。東と南への大移動が始まったのだ。南へは「南北輸送回廊」を通じてインドと連結し、東へはウラジオストックを中心に大々的な東方開発に着手する事だ。その一環が今年の中露首脳会談で合意した「シベリアの力2」という超大型対中エネルギー供給プロジェクトである。そしてウラジオストック―ムルマンスク間の北極海ルートはすでに開始された。ここにインドはチェンナイ―ウラジオストック海上輸送路プロジェクトを構想している。そしてウラジオストックを極東の経済首都に仕立て上げる事だ。ロシアとしてはしかしながら、シベリアをはじめとする東側領土にせいぜい1200万人程度の人口しか居住していないという弱点を抱えている。ここに中国と朝鮮の労働力は大変魅力的な誘いである。

朝鮮をユーラシアに向かって地経学的に統合する事は、同時にユーラシア大陸全部をくるむメガ連結網に朝鮮が接続されるという事でもある。エスコバルによればトランスシベリア鉄道と中国の高速鉄道網に平壌が連結されれば、さらにはサハリン天然ガス供給網に朝鮮共和国が連結されれば、朝鮮としては過去の「改革開放」とは次元の違う機会の窓が開かれる事を意味する。中国の一帯一路から外れている東北(満州)と朝鮮が連結される事もいくらでも可能だ。

そこで朝露首脳会談を私は朝鮮の「地政治学的ジャンプ」と表現してみようと思う。(南北)経済協力と非核化の交換を核心とした今までのあらゆる対北政策は、これによって不意に紙切れになってしまうかもしれない。朝米協議も同様だ。去る8月末に韓国統一部主催国際シンポジウムで、シカゴ大碩座教授ミアシャイマーは、第一に朝鮮の核によって朝鮮半島で戦争が起こっていないのであり、第二に朝鮮の核は中国の東北安保不安を和らげているという趣旨の講演をした事がある。同様に朝露首脳会談は、朝鮮の核がエスコバルの表現を借りるならば「一種のアジア太平洋軍管区 Military District」の核心戦略資産となる可能性を開いておいた。

朝鮮の汎ユーラシアへの「ジャンプ」は今までの韓米日のあらゆる対朝協議カードをあるいは無効化・無力化させるかもしれない事である。だが韓国は依然としてこの巨大な地殻変動もしくはその可能性をありのままに評価する事なく、ただ「大砲弾取引」物語に足首が縛られている。こうしているうちにひょっとしたら、すでにG7を追い抜いたブリックスに朝鮮共和国が招待され、上海協力機構とユーラシア経済連合首脳会談に金正恩が登場するであるとか、さもなければクレムリン報道官の話のように朝鮮の宇宙飛行士が月世界への一歩を踏む場面を空しく見守る火が来るかもしれない。


3.韓国の地経学

韓国の現在の地経学的状況は2022年貿易収支赤字マイナス478億ドルに要約される。その原因は何よりも対中貿易であった。2003年初めて対中輸出(351億ドル)が対米輸出(342億ドル)追い越して以降、2013年対中貿易黒字62億ドルを記録した。だが2018年の556億ドル以降、2019年290億ドル、2020年237億ドル、2021年243億ドルと記録され、2022年には結局12億ドルまで少なくなってようやく赤字は免れた。だが今年中半期すでに累積赤字90億ドルを記録した。

輸出において中国が占める比重も2022年に22.8%を記録したが2023年今年中半期にはついに20%ラインが崩れた。反面対米貿易黒字は堅調な増加傾向だが、2019年115億ドル、2020年166億ドル、2021年227億ドル、2022年280億ドルに上昇した。そして輸出においてアメリカが占める比重も2022年16.1%から今年3月17.8%に上がった。興味深い点は対米黒字が280億ドル規模にも関わらず、2022年全体貿易収支が金融危機の時よりも3.5倍より多いマイナス478億ドルを記録したという事だ。そして前政権で5-18位を走っていた貿易収支順位が2023年上半期はなんと200位に墜落した。そして今年7月までの輸出減少率はマイナス12.9%で、世界10大輸出国のうち唯一ふた桁を記録した。中国・日本よりも減少幅が2-3倍より大きかった。韓国の対外経済危機は他の何よりも対中貿易が主たる要因である。昨年2022年5月と今年2023年5月を比較した時、対中輸出1位国である台湾と2位国である韓国どちらも23%減少した。その結果台湾の順位は1位で代わりがないものの、韓国は4位に落ちた。同じブリックス国家である反面、ブラジルは13%増加し、ロシアやはり10%増加した。それなのに米中戦略競争の当事国であるアメリカはマイナス10%、そして日本はマイナス14%減少したという点だ。さらに言えば韓国が米日よりもはるかにより大きい幅で対中輸出が減少したという事実である。

品目別に見れば何よりも対中輸出の89%を占める重化学工業品が同様に核心要因なのだが、このうち半導体が含まれる電気・電子製品マイナス29%、鉄鋼マイナス23%、化学工業マイナス20%、機械類と精密機器マイナス12%水準だ。同時に米中間の「チップ戦争」によってむしろ中国が半導体「崛起」に乗り出しながら、韓中間の技術水準と技術格差が格段に減ったり、すでに追い越された場合が頻繁になっている。そこでさらに問題は、今後中短期にこうした対中貿易状況が好転する機微が見えないという点だ。それならば、今やそれでも韓米同盟のおかげで韓国経済がこの程度でも持ち堪えていると言えるだろうか。去る春の韓米首脳会談期間中にホワイトハウス安保補佐官は「新ワシントンコンセンサス」と名付けたアメリカの対外経済政策に対して講演した。等しい時期に財務長官イエレンは友邦国の生産基地対米移転を要求する「フレンドショアリング」に言及した。これと関連して当時私はこうした文章を書いた事がある。

「韓国企業、結局三星(サムスン)・現代・SKなどのみならず韓国経済自体に深刻な不確実性(すなわち利潤率低価)を招いているバイデン3法(超党的インフラ法・IRA法・チップ/化学法)は地政学的現実に直面したアメリカ経済の危機対応戦略の一環である。…アメリカの半導体・クリーンエネルギーなど核心部門中心「再」産業化戦略は必ず封臣国(封建領主に報土を与えられた臣の意だが、ここでは日本や韓国といったアメリカの属国・下位同盟国を指す:訳注)の「脱」産業化リスクを招き得る」

特にこの時発生する問題が封臣国資本と国家の関係だ。すなわち韓国政府は今回の首脳会談を通じて韓国資本の「利益一般」を政治的に防御するのに失敗した事で、これらの危機を深化させる事だろう。聞けば、三星が中国市場を放棄しないという決定を下したという。これはアメリカのフレンドショアリングなど新産業戦略と衝突する。この時発生する矛盾状況においてアメリカに完全帰順するコースを選択した尹錫悦政権は、これ以上資本の保護膜足りえないかもしれない。この場合、韓国資本の生存戦略が何なのか我々は問う以外にない。各選択肢の中で万一これら韓国のグローバル資本がホームベースをアメリカなどに移転した場合、我が国民経済は実に致命傷を負う。福祉は崩れて「我々も先進国」「我々も西側」式の虚偽意識は素顔を現す事だろう。このリスクは今一度政界へとフィードバックされながら、政権を危うくするはずだ。今韓国の半導体・電気自動車などと関連して韓米間の論争と韓国の挫折は、結局変化したアメリカの経済政策すなわち「現代的供給主導経済学」の真偽を誤読した結果だと言っても差し支えない。すなわちアメリカの新しい政策は域外にも適用されるものだとするならば、韓国産半導体の対中「輸出統制」「投資制限」そして最終的には単純に対米投資拡大ではなく、韓国の生産基地をアメリカに移転する「フレンドショアリング」つまり全面的にアメリカ内生産は「同盟国」韓国が当然すべき政策共助事項である訳だ。去る2年間韓国企業が1000億ドルすなわち我々の1年GDPの6%を超える対米投資にも関わらず、アメリカが望む事はそれもやり、究極的には生産基地も移転せよという話である。

そこで米財務長官イエロンが言うアメリカの「現代的供給主導経済学」、そしてサリバンの「新ワシントンコンセンサス」などは結局帝国のハレンチな「同盟窮乏化」戦略の別名だ。米中関係「安定化」という新しい話の糸口直面し、韓国外交はもう一度方向を失ってよろめくように見える。

(完)

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パレスチナ戦争に対するミアシャイマーの予見

米シカゴ大学教授であるジョン・ミアシャイマーは現実主義の政治学者として、ロシアがウクライナ侵攻する可能性を1990年代から予見していた人物である。それが現実となった2022年2月にはこのウクライナ事態の責任が西側NATOの東進にあるという事を直言して袋叩きにもあった。だがミアシャイマーの言っている事は何も間違っていない。それはその間の歴史的経過が証明している。ウクライナ事態勃発後にミアシャイマーほど西側論壇マスコミで嫌われ叩かれた知識人はいないが、それもまた現実主義の面目躍如と言うべきであろう。
ただし誤解のないよう言っておかねばならないが、ウクライナ事態を予見した程の人物だからといってミアシャイマーが「平和主義者」であったり「人道主義者」であるなどという事は断じてない。この人物は飽くまで保守派のアメリカ国益第一主義者であり「アメリカという国の利益の為にやっていい事、悪い事」を徹底して現実的に分析して論じているに過ぎない。だから時と状況によって「アメリカの利益」になるという確信さえあればNATOの東進に反対もするし、賛成もする。今の時代はそれ(NATO東進)がアメリカにとって極めて危険で不利益をもたらすという事を、ミアシャイマーは鋭く見抜いていたので苦言を呈したという事だ。その目的は大変好ましくないが、知識・見識は大変優れている、そんな知識人という事である。今の世の中、西側(もちろん日本・韓国含む)ではロクでもないエセ学者ばかりが主流メディア(MSM mainstream media)で詐欺みたいな事ばかり垂れ流している現状を考えれば、ミアシャイマーのように志はともかく現実をありのままに見て冷徹に分析する人材が「救い」のように思えてくる時がある。無能で馬鹿でインチキな三百代言よりも、有能で知的で正直な悪人の方が傾聴に値する。敵味方問わず無能な輩よりも、有能な敵の方が敬意を払うに値する。これもまたアメリカ一極覇権の崩壊しつつある、「100年間なかった大激変 百年未有之大変局 by習近平」たる今の危世・乱世のあり様であろうか。

さて、このミアシャイマー教授が今後のパレスチナ・イスラエル情勢について非常に興味深い見立てを述べていたので御紹介しておきたい。もちろんこれは今日明日に起こるような短期的見立てではなく、米・イスラエル・西アジア(いわゆる中東)情勢の長期的な見通しとして数年から10年ほどのスパンで、おそらく不可避な流れとして起こるものと考えるべきであろう。これは筆者が度々チェックしている韓国のユーチューブニュースチャンネルで取り上げられていたものである。

https://www.youtube.com/watch?v=dLcNJmkgJX8
전쟁이 어떻게 되든 이스라엘은 이길 수 없다 - 존 미어샤이머 / 팬타곤, 미군 사상자 은폐?
戦争がどうなろうとイスラエルは勝てない ジョン・ミアシャイマー/ペンタゴン、米軍死傷者隠蔽?
2023/11/11公開


・アラブとその他国家はすでに現代化された軍事力を持っている。
・イスラエルは南アフリカのようにアパルトヘイト国家として烙印付けられた。
・アメリカの人口分布が変わっている。(かつて1990年代に80%あった白人人口が今は60%台になり、引き続き減っている。10年もすれば有色人種の割合が50%を超える)
・多極化は避けられず、アメリカの覇権は縮小される。
・アメリカは徐々にイスラエルから手を引く。
・アメリカは中南米とアジア太平洋に集中する事になる。
・アメリカが手を引いたイスラエルの700万人口は、敵対的な3億に取り囲まれた小さな国家に過ぎない。
・トルコとイラン・サウジは核武装をする事になるだろう。


あれだけウクライナ事態で「民主主義を守る戦いだ」「侵略者ロシアを許すな」と騒いでいたアメリカが、イスラエルで事が起こるや即刻ウクラへの支援を打ち切ってイスラエルに肩入れし始めた。もはやゼレンスキーの末路は旧南ベトナム傀儡政権のゴディンジェムか、アフガニスタン傀儡政権のガニのいずれかしかない。西側の支援なしにウクライナが戦争を継続出来る望みはなく、ほぼ見捨てられたのだ。もちろんアメリカがゼニを出せなくなっても、ドイツや日本や韓国といった属国どもにそれをしばらくは肩代わりさせようとするであろう。ゼニや兵器だけでなく、実際に軍も派兵させられそうという点で、日本と韓国は特に危険である。イスラエルとウクライナ秤にかけりゃ、イスラエルが重たい米帝の世界。が、しかし…。
そのアメリカにとって最重要なはずのイスラエルも今後は分からないとミアシャイマーは言う。欧米主流メディアまでもがイスラエルの虐殺蛮行を報じており、これによってイスラエルのアパルトヘイト国家としてのイメージが世界中に大きく広まった事は、ウクライナ事態の時とは大分様相が異なっている。そして何よりもアメリカ自身の実情であろう。アメリカ一極世界覇権の崩壊はもちろん、そうしたアメリカの帝国主義と永久戦争体制を支持してきた白人人口自体の減少、経済の悪化、ドル体制の崩壊などで、イスラエルまでも切り捨てなければならない状況に追い込まれる可能性が高い。
「アメリカは中南米とアジア太平洋に集中する事になる」というのも、先日のアルゼンチン選挙で極右の親米反BRICS派大統領が誕生してしまった事を考えると、不気味である。かつて「裏庭」扱いして暴虐の限りを尽くした南米で、再びアメリカ帝国主義が勢力を伸ばす事になるのであろうか。
アメリカがイスラエルから手を引いたら? 同国もネタニヤフもまた旧南ベトナムやアフガニスタン傀儡政権と同じ事になるしかない。遅いか早いかの違いで、結局ネタニヤフもまたゼレンスキーと同じような立場にある点では違いがないのだ。
そうしてイスラエルは周りのアラブ・イスラム諸国に包囲され、孤立する。そのようにイスラエルが決定的に追い込まれるのは、アラブ・イスラム諸国が核武装を成し遂げた時だ。具体的にその可能性が高いのはトルコ・イラン・サウジといった、あの地域の大国達であろう。トルコ・イラン・サウジが核武装するのもまた時間の問題でしかない。その時にイスラエルの「核の優位」は消滅するのだから。
今後の世界は核・エネルギー・食糧の3大要素で決定されるだろう by李海栄」ピタリと一致する。

こうした事をミアシャイマーのような鋭い現実主義者が言う所に、注目しなければならないのである。これらの見立てをどう考えるかは各人の自由だ。だがそれを重要な参考知識に出来るかどうかが、大きな分かれ道になるであろう。

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